練習の最後まで生き残れるか - 羽生結弦論評&インタ

2014年1月4日土曜日

2013/14 チャン プルシェンコ ルカヴィツィン ワシリエフ 羽生結弦

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2014/1/2付、ソチオリンピック前夜の羽生結弦に関するロシアの論評記事です。

R-Sportで、主にアスリートの人生に焦点を当てた特集記事が掲載されています。少し前にはカロリーナ・コストナーが掲載されていましたが、今回は羽生結弦の登場です。


練習の最後まで生き残れるか - 羽生結弦論評&インタ

アンドレイ・シモネンコ
http://sportstories.rsport.ru/ss_person/20140103/711972588.html



2011年3月11日に日本を襲った壊滅的な地震によって、何百万人もの人たちの運命が変えられてしまった。そのうちの1人が、ソチ・オリンピックで金メダルを目指している。羽生結弦は、もしかすると日本史上最も才能あるスケーターかもしれない。彼のことについて話そう。

学者が明らかにしたところによると、2011年3月11日の出来事は、16000人もの死者を出しただけでなく、地球の自転軸を動かし1日を短くしてしまったという。まだ誰も福島原発で何が起こっているのか100%知ってはいない。数十万人が自分の家を捨てざるを得なかった。日本で「東日本大震災」と呼ばれるこの恐ろしい自然災害により家を破壊された人の1人に、まだ若いスケーターである羽生結弦がいた。

日本時間で14時台に起こった地震の瞬間、羽生はふるさと仙台のアイスリンクで練習をしていた。震央まで130kmと限りなく近い街で。揺れはあまりにも強く、氷作成システムも水道管も単純にバラバラになってしまった。地震のために羽生には家も練習のための条件も失われてしまったのだ。

それに続く数ヶ月間、羽生は様々な場所を回った。故郷の街で修復作業が行われているあいだ、羽生は横浜で練習し、また60回におよぶアイスショーに参加した。それは単にお金を稼ぐためだけではなく(もちろん、その時にはお金は必要だっただろうが)、コンディションを維持するためだけにもそれが必要だった。その後、かのブライアン・オーサーの下で練習をするためにトロントへと移った。仙台のリンクは、信じられないほどの日本人の勤勉さにより夏にはもう再開することとなった。

一時的な遺体安置所としても使用されたアイスリンクで、その1年後の2012年秋にグランプリシリーズのNHK杯が開催された。もちろん羽生も出場し、もちろん優勝した。大会が行われていた2日間も、地震は数回この仙台の施設を揺るがした。羽生は、彼自身の言葉によると、リンクと話して全てがうまくいくようにお願いしたという。「あとでありがとうと言っておきました。地震であの恐ろしい日々を思い出しましたけど」と表彰式のあとで彼は語った。

羽生は15歳の時から皆が騒ぎ出すスケーターとなった。その歳で、フィギュアの技術だけでなく、絶妙なスケートさばきを見せ、2010年ジュニアワールドで優勝したのだ。この若い日本人は、ジュニアの世界に留まるのをよしとしなかった。次のシーズンには、日本の男子シングル界でのクレイジーな競争の中、全日本選手権で4位となり、四大陸選手権で日本を代表する権利を勝ち取った。四大陸では2位となった。

結弦のさらなる進歩は地震では止まらなかった。翌年モスクワ・グランプリで優勝し、グランプリ・ファイナルへと出場。全日本選手権での銅メダルが羽生の2012ニース・ワールドへの道を開き、フリーで2位、総合で3位を占めた。現在の世界男子シングルにおける強力な競争という条件下で、17歳でこのような結果を勝ち取るということは、信じられないほどの成功だ。

羽生の急発進に貢献した人の中に、1988年オリンピックアイスダンスで金メダリストであるナタリヤ・ベステミヤノワと彼女の夫であり、またかつて高名なスケーターであったイーゴリ・ボブリンがいる。プログラムの振り付けなどで羽生と仕事をしたこの有名なスケーターたちは、彼について驚くようなことを言っている。「彼とはすぐに素晴らしい関係を築けました。振付師の要求は、ときに何か試してみなければいけないようなものがあり、必ずプログラムに入るというものでもありません。彼は何も言わずにすべてを試してみるのですが、どんな練習の滑りでも彼は全力で、疲労困憊するどころか、もう少しで意識を失いそうになるくらいなのです」とボブリンはインタビューで語った。「私たちのところに日本のテレビが来て、彼のインタビューをしていたのですが、そのとき通訳が教えてくれました。彼はいつも練習の最後まで生きていられないんじゃないかと思っていると。こんなにも彼は自分の仕事に身を投げ出して、また私たちが彼に与えているものを信じているということです」と、ベステミヤノワが付け加えた。

「羽生の強い面は、スケーティングそれ自体だ。彼が持っているスケーティングはとてもダイナミックだ」と、依頼に答えロシアのエヴゲニー・ルカヴィツィン・コーチがスケーターとしての結弦のプラスとマイナスを語ってくれた。ルカヴィツィン・コーチは、フィギュアスケート界の頂点へと羽生が向かっていく様を、彼が国際大会に現れた当初から追いかけている。「もう1つの強い側面はこういうことだ。つまり、羽生はエレメンツを思い切って演じ、うまくいかないんじゃないかという恐れがない。結果として質の面でエレメンツは素晴らしいものとなる。これは非常に重要なことだ。スケーターが保険をかけず、自分の力を信じることは。

「羽生の振付が他より秀でているとはたぶん言えない」とコーチは続ける。「むしろ平均的なものではないか。気に入る人もいれば、そうでない人もいるというものだ。弱点としては、いつも最後まで集中力を保っているわけではないというところだ。何度もライブで彼を見ているが、プログラムを最後までやりとげられず失敗することがある。その失敗が精神的なものなのか、機能的なものなのかはわからない。そのためにはスケーターももっとよく、内側から知る必要がある。それでも、羽生は言うまでもなくオリンピック・チャンピオンになる潜在力を持っている。もしソチでクリーンに滑ったら、彼は優勝候補の1人だ」。

多くの有識者が、羽生のスケーティングの質が高いことを無条件に認めながらも、その絶妙さでは、例えば世界選手権で3度優勝しているパトリック・チャンに劣っていることに注意を向けていることは、「人の数だけ意見がある」という真理を証明している。「比べてみるとわかるが、チャンがなるべく片足で滑っているのに対し、羽生は両足だ。この欠点については多くの人が指摘していて、スケーティング技術の評価でトップレベルになるのにはその欠点を克服したときだけだ」と1984年オリンピック・ペア金メダリストのオレグ・ワシリエフ・コーチは指摘した。しかし2006年のオリンピック金メダリストであるエヴゲニー・プルシェンコは、羽生が世界のフィギュアスケーターでナンバーワンだと考えている。「結弦は優雅で、洗練されていると同時に、スピンも素晴らしく、振付も際立っているし、カリスマも奪いようがないものだ」と羽生が2位となった今シーズンのGPSカナダ大会の後にプルシェンコは述べている。

美しい滑りと美しいジャンプの能力を与えられた者は数少ない。羽生はこの意味で比類の無い人物だ。フィギュアスケートの技術的側面と美的側面の両方に対する愛情を誰が彼に教え込んだのか、記者は羽生に訊いてみた。「本当に、ジャンプが跳べる人は多いけれども、滑れなかったり、その逆もあります。僕も実際、自分がどちらもできているとは思っていません。まだジャンプしかできていないと思っています」と羽生は自分に批判的に答えた。「プログラムの中であまりにジャンプに集中してしまうんです。もっと感情を見せないといけないでしょう。僕の最初のコーチである阿部奈々美先生は、滑りの感情面をとても重要と考えていました。そのことを先生から学ぼうと努力しました」。

羽生の長所と成功がこれだけあっても、ソチ・オリンピックに出場するチャンスは100%ではない。高橋大輔、町田樹、織田信成も全力で最も大事なトップ3に入り込もうとしているし、まだ小塚崇彦や無良崇人…もいる。しかし結弦がオリンピック代表に選ばれても、コーカサスの黒海沿岸(註:ソチ)への訪問は初めてのことではない。2012年のグランプリ・ソチファイナルに出場している。

「ソチでの一番の思い出は自分のスケーティングです」と羽生は話す。「すごく良い演技ができて2位になりました。またソチに戻って、オリンピックでもそれ以上の滑りをしたいと願っています。もちろん、コーチのブライアン・オーサーと一緒に黒海の海岸を走ったことも覚えていますよ。僕のことをとてもあたたかく歓迎して応援してくれた素晴らしいロシアのファンの方たちのことももちろん覚えてます。素晴らしい手紙を送ってくれました。ソチで皆さんに喜んでもらえるよう全力を尽くします」。

しかし、たとえもしこの18歳の羽生がソチ・オリンピックで優勝できなかったとしても、彼の時代はどんなものになることだろうか…



(終わり)




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