2000年代中盤に活躍し、いまはクラスノダールでコーチ・トレーナーをしているセルゲイ・ドブリンが、ロシアでの指導システムについて一問一答で説明しているインタビューがありましたので、前後編で紹介します。今回の後編は、男子と女子の違いや、ロシアと外国とのシステムの違いについてです。
掲示板を見るとロシア人の中でも賛否両論のインタビューですので、こういう意見のコーチもいるということでご理解ください。
なぜ宇野昌磨はトゥトベリゼのもとで耐えられなかったのか? - セルゲイ・ドブリンが語る
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メドヴェデワやザギトワは男子よりも多く練習しているのは本当か?成長期にどうやってジャンプを維持するのか?なぜ宇野昌磨はトゥトベリゼのもとで耐えられなかったのか? - セルゲイ・ドブリンが語る
https://www.sports.ru/tribuna/blogs/interval/2844607.html
マリヤ・セレンコワ / Sport.ru / 2020/10/22
(続き)
4回転ジャンプと複雑なステップ・シークエンスやつなぎのどちらがより多くの体力を必要とするか。
フィギュアスケートでもっとも難しい種目は(ジャンプのない)アイスダンスです。シングルでは、4回転ジャンプを習得したかしないかという問題ですが、アイスダンスでは、リンクに入って、あの4分間の間ずっと休みなくすべきことがあります。シングルでは数秒の間はリラックスできますが、アイスダンスでリラックスする時間はありません。
なお、4回転では多くの体力を消費するかもしれませんが、ここもまた技術的な問題となります。エレメンツが技術に沿っているのなら、選手は特に体力を必要としなくてもよい可能性があります。この余力は、プログラムの後半にとってとても重要です。ウルトラCを演技の冒頭にするのと、ボーナスを得るために最後に置くことは違います。
いまは、この人はジャンプが上手くて、この人はスピンが上手くて、この人はスケーティングが良い、といったことはありません。現代のフィギュアスケートでは、すべてをしなくてはいけなくなりました。以前は、中国人のジャンプは良いがスケーティングが良くなくて、アメリカ人は逆、ということがあったかもしれませんが、いまはみんなができています。そのコンビネーションがより良い者が勝つのです。以前、中国人は走ってジャンプ走ってジャンプでしたが、フェルナンデスやチェンはジャンプ以外にもうまくイメージを作り出し全力で滑るようになりました。
フィギュアスケーターは大変な演技のなかで感情を見せるようになっているが、それは自動的にそうなる域に達しているのか、それとも選手は実際に毎回の演技を「生きて」いるのか。
「子供の滑り」という表現があります。子供は自分の人生の中で、その年令のために、喜びや失望、より力強く鮮やかな感情といったものを経験できません。人生のなかでそういったものを経験した人の方が、それを楽に表現できます。
20歳にもならない子供がそういった感情に達することは、ただ単純に経験してないのですから、不可能です。まあ、人によります。不良の選手で、いつもごたごたがあるような人がリンクに入って全世界と戦うのなら、人はそれを感じるでしょう。
特に女子に見られる傾向だが、ウルトラCがあるとPCSが伸びる。それならなぜ、難しい入りやステップで悩ませる必要があるのか。
コンテンツはPCSに強い影響を与えますが、いずれにせよ、プログラムの難度が高い選手が勝つものです。例えば、ワリエワは、単独の4回転と、さらにコンビネーションという最高難度のコンテンツでロシアカップを強襲しました。トルソワは4回転が3本でした。結果として、ワリエワがいくら良い滑りをしようとも、コンテンツの難度が高いほうが勝ちました。
4回転と3回転を比べると、まったく違うレベルです。私なら、フィギュアスケートを年齢でカテゴリー分けするのではなく、エレメンツで分けると思います。3回転を跳ぶ女子選手と、4回転を飛ぶ女子選手、とです。乱暴に言えば、4回転持ちの選手はカテゴリーAで、カテゴリーBは3回転で落ち着いて滑って勝てて、人生を楽しめるものです。4回転は別にすればいいでしょう。あるいは、男子とも一緒でもいいかもしれません。もちろんこれは冗談です。男子対女子というのは、男子のほうが身体的に強いので平等ではありませんから。ただ、4回転を持つ女子は、世界ではもう少なくなりません。
男子と女子の練習量はどれだけ違っているのか。
どれだけのものか、想像もできないでしょう。ロシア男子は、女子に比べて1/3くらいの練習しかこなしていません。
女子は、「全力疾走する馬に乗った女は止められない」の原則で熱心に練習します。トップ選手、あのメドヴェデワやザギトワもこんな感じです。あまりに熱心なので、他は比べものになりません。男子が見たら、感銘は受けるでしょうが、「ああはできない」と言うでしょう。
もちろん、同じように熱心な男子もいますが、ロシアのトップ女子のこなす量は、男子とは比べられません。女子はスケーティングやジャンプのエレメンツを3倍はします。なので、あのレベルなのです。
成長期や体重は、体造りに影響するか。
例えば、体造りが足りないと言われるマカル・イグナトフは、身体トレーニングをしてないのかもしれません。身体が足りないことが見てわかります。
選手がリンクに入ると、滑るのが楽なのか辛いのかがすぐにわかります。大きな女子が出てきたら、彼女は大変だとすぐにわかるでしょう。もちろん、シーズンで数試合はうまくいくかもしれませんが、シーズンを通して滑って勝ち続けることはできません。というのも、女子にとって一番重要なのは体重だからです。この基礎からすべてが積み上がっています。ロシア女子は、単調な練習をこなすことによって安定性を得る良い例です。女子選手が2大会連続で出場して滑ると、3回目の大会では1回目よりも良い演技ができる可能性があります。
男子の方が大変です。特に、20歳を超えると、回復により時間がかかります。男子の身体コーディネーションのピークは21-23歳です。その時までに習得できなければ、24歳で新たなことを習得するのは難しくなるか、あるいはまったく不可能になり、すでに持っているものをまとめることになります。
女子はこの年齢は15歳までです。なぜなら、成長期が始まると、すべては上記の男子と同じになります。ただ、女子はこれが15歳から始まります。成長期後も新たなエレメンツを習得するのは稀で、持っているものの維持をするのみです。ですので、9歳で4回転について考えるべきです。14歳では遅いのですから。さもなければ、例えばペアといった他の種目について考えざるを得なくなります。
リーザ・トゥクタムィシェワは稀な例外で、彼女には素晴らしい才能があり、ジャンプも高く、幅があり、踏切も素晴らしいです。彼女は早くにトリプルアクセルを習得しましたが、4回転の問題は、おそらく精神面でしょう。4回転をもっと早く学んでいれば、絶対跳べたことでしょう。しかし、以前は4回転の必要もありませんでした。必要性がでてきたときにはもう20歳でしたが、それでも習得することができることがわかりました。しかし、習得することと、それを大会で見せることは違います。彼女がすべてまとめてくれることを祈ります。
宇野昌磨がトゥトベリゼのもとに研修に来たとき、彼は基礎トレーニングやウォームアップ、クールダウンがあることに驚いていた。これは外国人にとって例外的なことなのか、それとも普通のことなのか。
アメリカや日本ではシステムがまったく違います。彼らのところでは、商業的な要素が大きいのです。時間があれば、リンクに入って滑るという。
ロシアは違っています。練習日はウォームアップ、氷上練習、クールダウンから構成されています。基礎トレーニングは週に2日、またコレオ練習が週に2-3日あります。怪我のないように、腰が痛まないように、膝に問題がないよう、そして半月板の問題が早くに現れないように、こういったことすべてをしているのです。
どのチームも、他のチームのシステムを真似することはありません。金メダリストを育てる理想の方程式はなく、誰も考えだしたことも、考え出すこともありません。あるコーチはこちらに、別のコーチはあちらに重点を置き、あるいは身体トレーニングをまったくしないコーチもいます。すべては指導の経験によるものです。ある点を押して金メダリストを育てられたからといって、同じことをしても結果はそうならないのです。
これは、どこで選手が練習しているのか、どのようなサポートがあるのか、どんなセレクションなのか、チームがどのように機能しているのかといった、たくさんの要素にかかっています。
最高のコーチ、最高の専門家は、フェンスの外側に立ちスケート靴も履かずとも、選手は話を聞き入れ理解します。こういったコーチは、選手に理解させるのに最小限の動作しかしません。若いコーチが常にリンクに入ってなにか見せようとしていても結果としてひどくなる、ということもあります。これはすべて時間とともに積み上げていくものです。
(終わり)
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