今回のISUフィギュアスケート・アワードの発案者とされるスポーツ・エージェントのアリ・ザカリャンのインタビューがありましたので、2回に分けて紹介します。1回目はフィギュアスケート・アウォードの経緯です。
ザカリャン:世界のショー・マネージャーは全員、羽生結弦に祈っている
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11/8発売 Sportiva 羽生結弦 日本フィギュアスケート2019-2020シーズン序盤号 (集英社ムック)
(続く)
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11/8発売 Sportiva 羽生結弦 日本フィギュアスケート2019-2020シーズン序盤号 (集英社ムック)
アリ・ザカリャン:世界のショー・マネージャーは全員、羽生結弦に祈っている
エレーナ・ヴァイツェホフスカヤ / 2019/10/28 / R-Sport
エキシビジョン:名誉か義務か?
(フィギュアスケートにもそのレッドカーペットが現れることを、あなたがどれだけ長いこと夢見てきたことか、知っていますので、そのアイディアが実現に至ったことについて心からお祝い申し上げます。このイベントを実現するために、ISUとの相互理解を見つけるのはどれだけ難しかったのでしょうか。)
私が「オスカー」について初めて話したのは、本当に前のことで、8年前の爽快でした。アイディア自体が頭に浮かんだのはもう少しまで、アレクサンドル・オヴェチキン(注:ホッケー選手)と一緒にラスベガスのNHLワールドに来て、彼にリーグMVPが授与されたときのことです。確か2009年だったと思います。私たちが街を歩いていると、皆さんがサーシャ(オヴェチキン)を指差して「MVP!、MVP!」を一斉に叫んでくれました。つまり、彼らは名前さえも発音していないのです。アメリカの観客の目には、このタイトルだけでどれだけ完結しているかということです。こういったものは頭の中に強く引っかかります。とはいえ、ISU総会で私が初めて氷上の「オスカー」が必要だと発言したときは、皆さん懐疑的な態度でした。「わかった、えらいぞ、だから落ち着いて」と。
私がこの件を何度総会で提案したか、正確にはわからないくらいです。3回目くらいのときにはもう資料をすべて用意しました。プログラムを印刷して、プレゼンテーションを全部印刷して、また話は聞いてもらえたのですが、最近のスペインでの総会でやっと氷山が実際に動き出したのです。私はまた考え方についてすべて説明したところで、ISUはこの問題については検討する予定であると言われたのです。
その後はただ技術的なプロセスが始まりました。昨年の日本での世界選手権の際、20年来の付き合いがあるISU幹部の一人と会いました。私のアイディアは、天才的なプロデューサーだと思っているArt on Iceの責任者であるオリバー・ヘナーのプロジェクトへと引き寄せられました。会話の後で、私とヘナーがイベントのクリエイティブな部分の実現に取り組んでもらえたらありがたいと言われました。というのも、オリバーはあらゆるショー開催の多大な経験を有しているからです。フィギュアスケート興行へのヘナーの貢献は、かつて長年Champions on Iceを世界中で開催し、非常に多くの人に影響を与えたたトム・コリンズに匹敵するものと思っています。ISUに対しては、私たちの提案に応じてくれたことについて本当に感謝しています。
フィギュアスケートのエキシビジョンは何かが違うという思いが、ずっと私を悩ませてきました。フィギュアスケートのエキシビジョンは通常日曜日に行われます。土曜の夜には御存知の通り大会が遅くまであり、世界選手権で優勝したらそのことを家族や友人と祝いたいでしょうから、3時位まで忙しくしていることになるでしょう。どこかで遊んで祝うことでしょう。しかし、朝8時にはショーの参加者はそれぞれリンクに入って、次のガラ・コンサートでの全体演技を作り上げなければなりません。そして2時にはエキシビジョン自体が始まります。
(言い換えると、大きな大会のエキシビジョンへの参加は、フィギュアスケート選手にとってある種の義務ということでしょうか。)
率直に言えばそうです。そしてチケットを買った観客は、エキシビジョンはそのイベント全体の最高の部分だと思うでしょうが、実際は騙されているのです。なぜなら、2時間の間、昨日は4回転を跳んでいた人が、今日は頑張って転んでばかりなのを見ることになるからです。あるいは、数日間かけてメダルを争ったあとで、脚を動かすのが精一杯でものすごくゆっくりとした音楽で滑るとか。
MVSと、縫い物をしてくれる母
(現在のエキシビジョンの形式自体の廃止を提案されているのでしょうか。)
まったく違います。ただ、選手が普通に睡眠をとって、自分を取り戻して美しく着飾れるよう、始まりをもっと遅くに設定するだけです。そして、レッドカーペットも登場します。レッドカーペットは、あらゆる世界的に大きな賞にはあるものです。
(賞はいくつ、どんなものになるのでしょうか。)
今シーズンは7つを予定しています。「最優秀新人賞」、「最優秀指導者賞」、「最優秀振付師賞」、「最優秀プログラム賞」。これで4つ。さらに、「最優秀衣装賞」、「功労賞」、そして「最優秀選手賞」です。これは他のスポーツとの類似で「MVS」、最優秀スケーター(Most Valuable Skater)と呼んで良いでしょう。このカテゴリーの受賞者となれるのは、誰か1人だけです。各種目の最優秀者というわけではありません。
(極めて難しい選択じゃないかと思いますが。)
実際は違います。質問します。フィギュアスケート選手の中で、昨シーズン誰が一番良かったと思いますか、という質問に対し最初に思い浮かんだ人を答えてください。
(ネイサン・チェンだと思います。)
まったくそのとおりです。私が同じ質問をした10人のうち10人全員が「チェン」と答えました。2年前ならジェーニャ・メドヴェデワだったでしょう。3-4年前ならパパダキスとシゼロンです。オリンピックシーズンは絶対にアリョーナ・サフチェンコ。言うまでもなく、このようなタイトルを獲る選手には一定の利益があるはずです。まず、エキシビジョンでの選手の価値が違うものになるはずです。フィギュアスケートが好きな人たちは、自分の目の前にいあるのは単なる世界選手権の金メダリストではなく、MVS、最高の中の最高なのだとわかってくれるはずです。もっと目立ち、強くなれるよう、また候補者の中に入れるようできる限りすべてのことをするように、この賞は必ず各選手に刺激を与え始めます。かんたんな例を挙げましょう。ハリウッド俳優が亡くなったとき、彼が何本の映画に出てどれだけ稼いだのかについては誰も覚えていないでしょう。「オスカー」受賞者が亡くなった、あるいは複数回の「オスカー」受賞者が亡くなった、と言われるのです。フィギュアスケートの歴史はおよそ130年あります。そして、フィギュアスケートの歴史に多大なる貢献を実際にした人たちに敬意を表する機会を、我々は持っていない、ということになっているのです。
まあ、それに加えて、純粋のビジネスの観点から判断しています。「最優秀プログラム賞」や「最優秀衣装賞」といった賞ができれば、フィギュアスケート産業の多くの層を直接刺激します。つまり、振付師は違った風に仕事に取り組むようになり、裁縫師は自分の作っているものに対して違った態度をとるようになるでしょう。ただ想像してみてください。素晴らしい衣装を作っている誰かのお母さんが、フィギュアスケート界全体でデザイナーとして有名になるのかもしれません。ロベルト・カヴァリやワレンチン・ユダシキンといった人たちにとってさえ、このような賞の獲得はイメージを構成する大きなものとなるでしょう。
(続く)
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