ロシアForbes誌が、主に最近引退したアイスダンス選手であるベチナ・ポポワのインタビューをもとに、ロシアでのフィギュアスケート選手にかかる費用やフィギュアスケート連盟の費用負担についての記事を掲載しているので、後編は衣装、音楽、給料と賞金についてです。
なお、昨日(2020/5/19)確認したところでは、1ルーブルは1.5円くらいです。
貧乏人のための競技ではない -ザギトワレベルの選手を育てるにはいくらかかるのか
(前)練習と合宿/プログラム振付
(後)衣装と装備品/音楽/給料と賞金 ← この記事
5/21発売 ICE PRINCE フィギュアスケート
マリーナ・クルィロワ / Forbes / 2020/5/14
(続き)
もう一つの避けられない費用項目は、大会用の衣装である。オリンピックシーズンのアリーナ・ザギトワのショートプログラム「ブラック・スワン」用の衣装替えのあるチュチュには、約70,000ルーブルかかっている。しかしこれが上限ではない。外国のトップアトリエは、大会用衣装作成に2,000-2,500ドル取っている。
クリスタルとスパンコールが、フィギュアスケートに特化したあらゆるアトリエの予算の大きな部分を占めている。100,000ルーブルでスワロフスキーの「石」のパッケージを10-12買うことができるが、多忙な時期にはこれでも1週間も持たない。より手頃なモデルもあるが、それに対してもかなりの金額を掛けなければならない。
2018/2019シーズンのソフィヤ・サモドゥロワのフリー・プログラムのドレスには、石だけで30,000ルーブルかかりました。」と、アトリエ「アラヴァナ」の共同オーナーであるスヴェトラーナ・ガチンスカヤは述べる。「主に細かいキラキラを散らばせるために、10袋以上の10,000-12,000のクリスタルを使いました」。
石のことを入れない平均的な衣装価格は25,000ルーブルから40,000ルーブルである。これは、フィギュアスケートには伝統的なストレッチメッシュ、ライクラ、シフォンを使用した場合である。「レースもよく使われていますが、高いですし作業も難しいです。」とガチンスカヤは付け加えてる。「オートクチュールの布の使用を依頼する選手もいます。そのプライスリストには驚くばかりで、1mあたり30,000ルーブル以上もしますが、その代わり、例えばパールレースの付いた布を見つけることもできます。とても美しく繊細な作品です。トップ選手はこういったものも利用できます」。
スケート靴は、確実に節約してはいけないところである。スケート靴にはエレメンツ遂行の質だけでなく、選手の健康がかかっている。プロレベルのスケート靴は1足約50,000ルーブルであり、さらに25,000-30,000ルーブルをブレードに支払う必要がある。
「その他のスケート靴に関する費用はもうそんなに高くありません。」とポポワは考えている。「しかも、トップ選手は少なくとも1足は連盟が負担することを常に当てにできます。しかし、ここにも微妙なところがあります。例えば、私はリスポートが合わなくて、いつも足裏を怪我してしまいます。しかし、連盟からもらえるのはそれだけだったのです。とはいえ、ロシア選手は様々なメーカーのスケート靴で滑っています。結果として、私はリスポートを売って自分で新しいのを買わざるを得ませんでした」。
あらゆるプログラムにおいて最重要の要素は、音楽である。しかも一つの音楽の構成に、複数の曲が使用されうる。フィギュアスケート選手にとって、リズムの変化を強調するのが重要である。
ロシアでは、曲の構成要素を1つのサウンドトラックに統合するのは、通常振付師が行う。振付師はエレメンツの配置をきちんと想像し、どこに音楽のアクセントが必要なのかを理解している。この作業は振付費用に入っており、別にお金を払うものではない。
しかし、スペシャリストに依頼することもできる。例えば、多くの有名な選手のために音楽のアレンジをしているSportMusic.comスタジオ代表のアレクサンドル・ゴリトシテインなど。彼の仕事には、課題の難しさと納期に応じ、95-175ドルかかる。「最近は曲の選択へのアプローチがますますシンプルになってきています」とゴリトシテインは述べる。「専門的なアレンジャーの支援なしで曲を構成できるようなものが選ばれています。節約しているのです。すでに誰かが切り取った曲で、シーズン初期の大会でジャッジに不合格とされたものが持ち込まれる場合もあります。音楽に正しいビートがなかったということで、選手の評価が下げられるのです。それで、他人のミスを修正するために自分が何か考え出す必要があります」。
著作権についてはまた別の経緯がある。例えばイギリスでは、音楽の使用権については選手自身が合意を得ている。現地放送局に権利保有者からの書面の同意がなければ、放映時にトラックの音が消されることさえある。アメリカではこの問題は大会を開催するアリーナの責任範囲である。アリーナの所有者が著作権組織に一定の金額を納付している。ロシアではすべての責任は大会の組織者、つまりフィギュアスケート連盟が負っている。ロシア著作権社に支払われた著作権料を、同社が権利保有者に支払う。著作権料は、チケット販売収入の2%プラス無料招待者一人につき5ルーブルである。
(アナスタシヤ・ミシナ/アレクサンドル・ガリャモフは2019年グランプリ誌シリーズで39,000ドルを稼いだ)
「私の曲のライブラリーには6万曲以上ある」とゴリトシテインは述べる。「そのすべてに利用権があります。新しい曲の作業を依頼された場合には許可をとります。作曲者/その代理人または発行者/演奏者にです。多くのクラシック楽曲の著作権は作曲者にではなく、雇われた演奏者や組織にあります。楽曲の相続人には75年を経過したものについてはなにも請求できません。以前は25年でしたが、最近期間が更新されました」。
フィギュアスケートの人気の高さにもかかわらず、スターの稼ぎは、サッカー選手やホッケー選手とはかなり異なっている。グランプリシリーズ大会の優勝は18,000ドル、ファイナルは25,000ドルである。最大限の結果を残しても、シーズン前半の賞金は61,000ドルしか稼げない。
フィギュアスケートにおいて1年で最も重要な大会である世界選手権の場合は賞金が多くなる。シングルの優勝者には64,000ドル、ペアでは90,000ドルであるが、これは2人で分けられる。そしてもちろん、賞金すべてから税金を払わなければならない。しかも、それだけではない。
「税引き後に、およそ30%をコーチに支払います」とポポワは説明する。「さらに16-18%を連盟が留保します。結果として、賞金で残るのは半分以下です。選手に大きな広告契約があり、その選手が強化選手である場合は、連盟も15-20%を受け取ります」。
賞金のほかに、選手には「給料」がある。給料は、スポーツ省の奨学金や、選手が代表する地方自治体やスクールからの給付金など、複数から支払われる。連盟のタイトルスポンサーである「ロステレコム」社にも独自の奨励システムがある。
「強化選手ならば、いつでも普通の金額は当てにできます」とポポワは述べる。「重要な達成項目があれば追加で上乗せされます。私たちカップルは一人あたり20,000ルーブルでした。地方の選手については状況はもっと簡単ですが、モスクワにはあまりに多くの選手がいるために、全員に支給するわけにはいきません。強化選手以外の選手は、現代のフィギュアスケートではまったくお金を稼げません。実際、みんなは両親の熱狂によって支えられているのです。タチヤナ・タラソワがアレクセイ・ヤグディンの面倒を見ていたこと、アレクセイ・ミーシンがリーザ・トゥクタムィシェワを家族みんなと一緒に他の街から呼び寄せて、勝利へと導いたことは、思い出すことができるだけです。いまではそんな美徳にはもう出会えません」。
(終わり)
なお、昨日(2020/5/19)確認したところでは、1ルーブルは1.5円くらいです。
貧乏人のための競技ではない -ザギトワレベルの選手を育てるにはいくらかかるのか
(前)練習と合宿/プログラム振付
(後)衣装と装備品/音楽/給料と賞金 ← この記事
5/21発売 ICE PRINCE フィギュアスケート
貧乏人のための競技ではない - アリーナ・ザギトワ・レベルのフィギュアスケート選手を育てるにはいくらかかるのか
https://www.forbes.ru/biznes/400335-eto-sport-ne-dlya-bednyh-skolko-stoit-podgotovka-figurista-urovnya-aliny-zagitovoyマリーナ・クルィロワ / Forbes / 2020/5/14
(続き)
衣装と装備品
もう一つの避けられない費用項目は、大会用の衣装である。オリンピックシーズンのアリーナ・ザギトワのショートプログラム「ブラック・スワン」用の衣装替えのあるチュチュには、約70,000ルーブルかかっている。しかしこれが上限ではない。外国のトップアトリエは、大会用衣装作成に2,000-2,500ドル取っている。
クリスタルとスパンコールが、フィギュアスケートに特化したあらゆるアトリエの予算の大きな部分を占めている。100,000ルーブルでスワロフスキーの「石」のパッケージを10-12買うことができるが、多忙な時期にはこれでも1週間も持たない。より手頃なモデルもあるが、それに対してもかなりの金額を掛けなければならない。
2018/2019シーズンのソフィヤ・サモドゥロワのフリー・プログラムのドレスには、石だけで30,000ルーブルかかりました。」と、アトリエ「アラヴァナ」の共同オーナーであるスヴェトラーナ・ガチンスカヤは述べる。「主に細かいキラキラを散らばせるために、10袋以上の10,000-12,000のクリスタルを使いました」。
石のことを入れない平均的な衣装価格は25,000ルーブルから40,000ルーブルである。これは、フィギュアスケートには伝統的なストレッチメッシュ、ライクラ、シフォンを使用した場合である。「レースもよく使われていますが、高いですし作業も難しいです。」とガチンスカヤは付け加えてる。「オートクチュールの布の使用を依頼する選手もいます。そのプライスリストには驚くばかりで、1mあたり30,000ルーブル以上もしますが、その代わり、例えばパールレースの付いた布を見つけることもできます。とても美しく繊細な作品です。トップ選手はこういったものも利用できます」。
スケート靴は、確実に節約してはいけないところである。スケート靴にはエレメンツ遂行の質だけでなく、選手の健康がかかっている。プロレベルのスケート靴は1足約50,000ルーブルであり、さらに25,000-30,000ルーブルをブレードに支払う必要がある。
「その他のスケート靴に関する費用はもうそんなに高くありません。」とポポワは考えている。「しかも、トップ選手は少なくとも1足は連盟が負担することを常に当てにできます。しかし、ここにも微妙なところがあります。例えば、私はリスポートが合わなくて、いつも足裏を怪我してしまいます。しかし、連盟からもらえるのはそれだけだったのです。とはいえ、ロシア選手は様々なメーカーのスケート靴で滑っています。結果として、私はリスポートを売って自分で新しいのを買わざるを得ませんでした」。
音楽と著作権
あらゆるプログラムにおいて最重要の要素は、音楽である。しかも一つの音楽の構成に、複数の曲が使用されうる。フィギュアスケート選手にとって、リズムの変化を強調するのが重要である。
ロシアでは、曲の構成要素を1つのサウンドトラックに統合するのは、通常振付師が行う。振付師はエレメンツの配置をきちんと想像し、どこに音楽のアクセントが必要なのかを理解している。この作業は振付費用に入っており、別にお金を払うものではない。
しかし、スペシャリストに依頼することもできる。例えば、多くの有名な選手のために音楽のアレンジをしているSportMusic.comスタジオ代表のアレクサンドル・ゴリトシテインなど。彼の仕事には、課題の難しさと納期に応じ、95-175ドルかかる。「最近は曲の選択へのアプローチがますますシンプルになってきています」とゴリトシテインは述べる。「専門的なアレンジャーの支援なしで曲を構成できるようなものが選ばれています。節約しているのです。すでに誰かが切り取った曲で、シーズン初期の大会でジャッジに不合格とされたものが持ち込まれる場合もあります。音楽に正しいビートがなかったということで、選手の評価が下げられるのです。それで、他人のミスを修正するために自分が何か考え出す必要があります」。
著作権についてはまた別の経緯がある。例えばイギリスでは、音楽の使用権については選手自身が合意を得ている。現地放送局に権利保有者からの書面の同意がなければ、放映時にトラックの音が消されることさえある。アメリカではこの問題は大会を開催するアリーナの責任範囲である。アリーナの所有者が著作権組織に一定の金額を納付している。ロシアではすべての責任は大会の組織者、つまりフィギュアスケート連盟が負っている。ロシア著作権社に支払われた著作権料を、同社が権利保有者に支払う。著作権料は、チケット販売収入の2%プラス無料招待者一人につき5ルーブルである。
(アナスタシヤ・ミシナ/アレクサンドル・ガリャモフは2019年グランプリ誌シリーズで39,000ドルを稼いだ)
「私の曲のライブラリーには6万曲以上ある」とゴリトシテインは述べる。「そのすべてに利用権があります。新しい曲の作業を依頼された場合には許可をとります。作曲者/その代理人または発行者/演奏者にです。多くのクラシック楽曲の著作権は作曲者にではなく、雇われた演奏者や組織にあります。楽曲の相続人には75年を経過したものについてはなにも請求できません。以前は25年でしたが、最近期間が更新されました」。
給料と賞金
フィギュアスケートの人気の高さにもかかわらず、スターの稼ぎは、サッカー選手やホッケー選手とはかなり異なっている。グランプリシリーズ大会の優勝は18,000ドル、ファイナルは25,000ドルである。最大限の結果を残しても、シーズン前半の賞金は61,000ドルしか稼げない。
フィギュアスケートにおいて1年で最も重要な大会である世界選手権の場合は賞金が多くなる。シングルの優勝者には64,000ドル、ペアでは90,000ドルであるが、これは2人で分けられる。そしてもちろん、賞金すべてから税金を払わなければならない。しかも、それだけではない。
「税引き後に、およそ30%をコーチに支払います」とポポワは説明する。「さらに16-18%を連盟が留保します。結果として、賞金で残るのは半分以下です。選手に大きな広告契約があり、その選手が強化選手である場合は、連盟も15-20%を受け取ります」。
賞金のほかに、選手には「給料」がある。給料は、スポーツ省の奨学金や、選手が代表する地方自治体やスクールからの給付金など、複数から支払われる。連盟のタイトルスポンサーである「ロステレコム」社にも独自の奨励システムがある。
「強化選手ならば、いつでも普通の金額は当てにできます」とポポワは述べる。「重要な達成項目があれば追加で上乗せされます。私たちカップルは一人あたり20,000ルーブルでした。地方の選手については状況はもっと簡単ですが、モスクワにはあまりに多くの選手がいるために、全員に支給するわけにはいきません。強化選手以外の選手は、現代のフィギュアスケートではまったくお金を稼げません。実際、みんなは両親の熱狂によって支えられているのです。タチヤナ・タラソワがアレクセイ・ヤグディンの面倒を見ていたこと、アレクセイ・ミーシンがリーザ・トゥクタムィシェワを家族みんなと一緒に他の街から呼び寄せて、勝利へと導いたことは、思い出すことができるだけです。いまではそんな美徳にはもう出会えません」。
(終わり)
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