セルゲイ・ヴォロノフのロングインタ、第3回です。本インタビューの核となる、デニス・テンの振付の話です。なお、各タイトルは管理人が付しています。
4/16発売 ワールド・フィギュアスケート 85
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「自分のためというよりも、デニス・テンの記憶のために滑っている」セルゲイ・ヴォロノフ、ロングインタビュー
アナスタシヤ・パニナ / 2019/4/3 / Match TV
4/16発売 ワールド・フィギュアスケート 85
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(今シーズンのフリープログラムはデニス・テンの振付で、彼に捧げるプログラムとなりました。そのプログラムの振付がどのように行われたのか、また大会でどのような思いで演技しているのかを教えてください。)
そのときは袋小路でした。短期間にフリーの振付の問題を解決しなければならなかったという意味で。いろいろな有名な振付師に連絡をしていました。しかし、多忙であったり、あまり望まれなかったりで。なんとか振付師を見つけてプロの振付をするか、あるいはその問題を来シーズンの準備が始まるまで延期するか、決める必要がありました。私は延期したくはありませんでした。滑り込みやコンディションの調整といった、すべきことが十分にあるのですから。そういったことは、新しいプログラムがポケットに入っている状態でした方が良いのです。
決定は偶然やって来ました。いつかの朝にインスタグラムを眺めていて、デニスのストーリーを見て、頭の中にすべてができあがりました。彼のことは昔から知っていて、よく交流していました。彼は、スケートという意味だけでなく、人生全体について、とても多面的で博学な人です。話すだけで心地よい方です。
彼に直接メッセージを書きました。「デニス、プログラムの振り付けはやってる?」。彼はしていないと答えました。「では、やってみないか?」と訊いてみました。「いいよ、でも誰に?」。私のことだと知って彼は驚きました。「あなたのこと、駄目にしてしまわないかな?」と疑問に思ったようでした。いや、駄目にすることはないという、はっきりとした自信が私にはありました。人によるのでしょうが、彼だけはそうではありません。そのとき、デニスはカザフスタンでのショーの準備をしていたのですが、多忙なスケジュールの中で時間を見つけてくれました。私たちは、アルマトイとアスタナの2都市で振付をしました。
正直に言うと、おそらくキャリア上で一番楽しい振付作業となりました。デニスにとっても面白かったようです。彼は取るに足らないような詳細まで、プロセスに入り込んでいました。誰かには大きく響くかもしれない、こんなフレーズがあります。天才的な人たちは常に自分を疑っている。デニスも疑っていました。
彼は、亡くなる直前に私にメッセージを送ってきて、「セリョーガ(ヴォロノフ)、プロを滑っていて全部気に入ってる?何か変えた方が良い?」と訊いてきました。無関心ではいられなかったのです。私たちはプロを最後まで作り込むのが間に合わず、また夏に合うはずでした。残念ながら、間に合いませんでした。
私は自分で、このプログラムにはデニス以外の誰の手も触れさせないという、原則的決定を採りました。これが正しいのかそうではないのかはわかりませんが、私にとってこれは唯一の、正しく、誠実な決定です。亡くなった方への単純な敬意です。
このプログラムを滑ることは、私にとって巨大な責任でした。最初のホディンカ(注:モスクワ・メガスポルト)でのテストスケートから、自分のためというよりもデニスの記憶のために滑っているとわかっていました。自分への批判はなんとか対処しています。しかし彼の仕事はきちんと届けたかった。彼は素晴らしいと言ってもらうために。彼は最高レベルのスケーターであっただけでなく、プロの振付師としての最高レベルでした。その多くの部分ができていれば良いと思います。
とはいえ、プログラムはもちろん複雑でした。何よりもまず、精神的な意味で。スタート位置でポーズに入ると、双肩に巨大な板がのしかかります。ただ一つの思いだけで自分を支えていました。ただ、できうる限り力強く滑らなければならないと。すべてをなげうって、自分を氷の上に留めるように。
このプログラムを全世界の観客にお見せできたのは嬉しいです。日本でも、ヨーロッパでも、カナダでも、アメリカでも。どこか上の方からデニスが私のことを見て、恥ずかしく思っていなければ良いと思います。
(衣装のアイディアについてもデニスと相談していたのでしょうか、それとも彼が亡くなった後に出てきたものなのでしょうか。)
衣装はいつも自分のチームと一緒に作っていて、どんな創造のプロセスにも議論や誤解はあります。そのような道でしか真理にはたどり着けません。今回も例外ではありませんでした。
衣装は気に入っています。良い意見もあまりそうではない意見も、いろいろな意見を目にしましたが、決定権はすべて私にあります。
デニスは、イメージや本質など、プログラムを明確に説明してくれました。面白い比較をしていました。「セリョーガ(ヴォロノフ)、ウルヴァリンは不老不死だけど、フィギュアスケートのものさしで言えばあなたもまるで不老不死だよね」と言って、大笑いしていました。そのときはまだ氷上練習が始められていなくて、アルマトイのカフェで話をしていたのですが、デニスは本当に創造的なヤツだと思いました。彼は、私や他の多くの人たちよりも先を見て、感じています。氷上で彼とライバルとして会えただけでなく、彼が私に経験のほんの一部を伝えてくれたという運命に、とても感謝しています。
(続く)
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