2019年12月の、トリノGPF後ロシア選手権前のグレイヘンガウス・コーチのロングインタビューがロシア・フィギュアスケート連盟公式サイトに掲載されていましたので、前後編で紹介します。
今回の後編は、4回転の危険性、羽生結弦、母の死とザギトワに振り付けたエキシプログラムについてです。
ダニール・グレイヘンガウス:女子でも4回転が跳べると、まずコーチが頭の中のハードルを超える必要があったと思う
(前)GPFでの各選手の演技/女子の4回転
(後)4回転の危険性/母の死 ← この記事
4/21発売 田村明子『翼をはばたかせて 世界のトップスケーター12人がつむぐ「氷上物語」』
(続き)
(猫のように。)
(しかも、おっしゃられたとおり、女子の身長と体重を鑑みれば、男子よりも怪我の危険性は低いと。)
(つらいことを思い出させて申し訳ありません。バレエをすることはなかったとのことですが、バレエはお好きですか?)
今回の後編は、4回転の危険性、羽生結弦、母の死とザギトワに振り付けたエキシプログラムについてです。
ダニール・グレイヘンガウス:女子でも4回転が跳べると、まずコーチが頭の中のハードルを超える必要があったと思う
(前)GPFでの各選手の演技/女子の4回転
(後)4回転の危険性/母の死 ← この記事
4/21発売 田村明子『翼をはばたかせて 世界のトップスケーター12人がつむぐ「氷上物語」』
ダニール・グレイヘンガウス:女子でも4回転が跳べると、まずコーチが頭の中のハードルを超える必要があったと思う
ロシア・フィギュアスケート連盟公式サイト / 2019/12/20
(続き)
(しかし、それは危険だという人たちもいます。とはいえ、それは例えば女性が馬に乗ったり自転車に乗ったりし始めた昔に、同じことが言われていましたが。)
フィギュアスケートについて言えば、身長と体重の問題が大きな役割を果たしています。男子が身長180cm体重70kgとして、4回転を跳んでいるのであれば、平均的な身長160cm体重50kgの女子もそのジャンプを跳べます。さらに、女子はより手足が長く、柔らかで柔軟性が有り、身体が十分に準備されて筋肉も弾力性があるなら、怪我の確率は低くなります。
結弦を見てください。ジャンプに入りながら「爆発」するとき、彼の筋肉や靭帯はあまりに理想的であり、そしてその後は完全に緊張を解いているのです。転倒するときでも、緊張を解いているおかげで転倒をどれだけ軽減しているのか、よくわかります。
(猫のように。)
ええ、猫のように。ですので、なぜ女子は4回転ジャンプを跳ばなくても良いというのか、その憤慨が理解できません。最近、リーザ・トゥクタムィシェワがみんなに証明しました。正しい技術のジャンプを持っていれば、どんな年齢でも3Aを跳べるし、4回転を習得できるのです。リーザが持っている跳躍力と回転力という可能性があれば、もし彼女が子供の頃から4回転を習得するという目標を立てていたなら、もしそれが彼女のキャリア中に必要だったとしたら、彼女は5種類すべての4回転が跳べたかもしれません。いや、たぶんループを除いた4種類ですかね。単に以前は必要なかったので、リーザはそのジャンプを練習しなかったのです。そしていま練習を始めて、それが跳べることがわかったのです。
(しかも、おっしゃられたとおり、女子の身長と体重を鑑みれば、男子よりも怪我の危険性は低いと。)
当然です。さらに女子は、このプロセスにどのようにアプローチしなければならないかについて、かなり注意深い態度をします。女子はいつもウォームアップをし、必要なマッサージをし、怠けることなく、ランニング、ウォームアップとクールダウンをしますので、身体が負担をかけた後に回復するのです。男子はこれをよく「省略」してしまいます。自分のことで覚えているのですが、クールダウンに入って5分もしたら帰ってしまっていました。そして翌日、筋肉はこわばり、難しいエレメンツをしてちょっと急に動かすと、小さな怪我をしてしまっていました。
ですので、どんな練習の後でも、完全に身体をリラックスさせること、ストレッチ、マッサージ、処置がとても重要なのです。
そのように回復させれば、翌日は同じような練習負荷に取組むことができ、怪我のリスクは最小限となります。
(あなたのお母様はボリショイ劇場のバレリーナでしたね。なぜ彼女の後を追ってバレエを選ばなかったのですか?)
フィギュアスケートは4歳から始めましたが、バレエは7歳からの募集でした。そのときにはすでに3年スケートをやっていたので辞めたくなかったのです。バレエはやらないと、泣き叫びました。母は、フィギュアスケートはバレエ学校に入る準備のためにやらせていたのでしょうけれど。
(お母様のリュドミラ・シャラショワは最近亡くなられました。そしてあなたはアリーナ・ザギトワにあなたのお母様を記念したエキシナンバーを振り付けられました。そのアイディアはどのように生まれたのか、教えていただけますか。)
アリーナが札幌でのグランプリ大会で演じたエキシプロは、1ヶ月以上前に私たちを置いて去っていった私の母に捧げたものです…。このナンバーは、すべてが起こった3日後に生まれました。練習に来て、こんなアイディアがあるとアリーナに言いました。アリーナは、「あなたご自身はそのナンバーを演じたくないのですか?」と尋ねてきました。彼女の優しさでしたが、それでもやはりアリーナを通して自分の感情、心の悲しみを伝えることにしました。彼女には同意してもらってとても感謝しています。このナンバーは、新たな人生や、自然と関連したふつうのこと、美しいもの、人にわかりやすいものを象徴しています。再生、輝く思い出のような。つらい喪失感に耐え乗り越えるのが楽になりました。
(あなたのお母様はアリーナを支えていたんですよね。)
母はチーム全員のコレオ指導をしていました。オフアイスで、プログラムの振付すべて、腕の使い方や動きの一つ一つまでの仕上げをしていました。オリンピックシーズンは、「黒鳥」や「ドン・キホーテ」でアリーナとたくさん練習していました。母とアリーナはとても仲がよく、アリーナは母の誕生日に猫を贈ってくれました。いまは私のところにいます。猫は大きくなりました。性格はアリーナにとても似ています…。
アリーナと母には信頼関係がありました。そして、アリーナにとっては、チームの選手全員と同様、私の母の死はつらい衝撃となりました。
(つらいことを思い出させて申し訳ありません。バレエをすることはなかったとのことですが、バレエはお好きですか?)
もちろんです。バレエを好きにならずにいられるでしょうか?単に私の人生はフィギュアスケートと密接に結びていていて、ロシアでは、バレエよりもフィギュアスケーターのほうがちょっとだけ可能性が大きいと思われます。氷やスケート靴を使って、できることが舞台の床よりもちょっとだけ多いです。
(バレエでは好きな振付家はいますか?)
モーリス・ベジャールです。
(なぜ彼なのですか?)
独特で特別な振付だからです。自分のプログラムな自分の仕事でも、何か違うことをしようとしています。どの振付師も、自分の筆跡を持っていなければなりません。そして覚えてもらうためには、誰もやったことがないことをしなければなりません。
(チームにはたくさんの教え子がいますが、どうやってみんなに違うプログラムを振り付けられるのでしょうか。)
それが最も難しいところです。作曲家たちに、もっと速く新しい音楽をもっと作るようお願いする用意があります。マックス・リヒターやダリオ・マリアネリといった作曲家の曲をほとんどすべて私は使っていますので。私たちは新しいプログラムをたくさん振り付けていますが、作曲家は新たな音楽をそんなに書いていませんので、もっと速く仕事をしてほしいですね。
言うまでもなく、エテリ・ゲオルギエヴナ(トゥトベリゼ)と共同でプログラムを作っています。一緒に振付をしています。プログラムの数があまりに多いので、アイディアの数もたくさん必要です。
(ありがとうございます。成功をお祈りします。)
(終わり)
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